はじめに
- あなたの夫婦関係、いつからすれ違い始めましたか?
└「気づけばセックスレス」「会話が減った」「手を繋いだのはいつだろう?」──そんな“すれ違い”を抱えていませんか? - この記事で解決できること
育児に追われながらも、もう一度「心と体でつながる夫婦関係」を取り戻すための【科学的根拠 × 実践ステップ】を紹介します。共働き夫婦でも、時間がなくても、愛は再生できます。
今、何が起きている?
「子育て中はセックスしなくて当然」って本当?
育児が始まると、多くの夫婦が「かつてのように愛し合えない」と感じるようになります。これは感情の問題だけではなく、心理的・生理的に説明できる明確な理由があります。
まず、最大の要因は慢性的なストレスと睡眠不足です。Kalmbach et al. (2015) の研究では、睡眠不足の女性は性的欲求の低下や性行動の減少と有意に関連していると報告されました(p < .05, N=171)。夜中の授乳や子どもの夜泣きが続くなかで、パートナーとの親密な時間を持つ余裕はなくなっていきます。
さらに、Nomaguchi & Milkie (2003) の調査によると、育児中の親はストレスや責任感の増加により「パートナーとの関係満足度」が有意に低下する傾向があるとされています。育児を通じて得られる喜びとは裏腹に、パートナー間のコミュニケーションが減り、「親」としての役割に集中するあまり、「男女」としての関係性が後回しになってしまうのです。
また、家事・育児の役割の偏りも、関係の冷却を招く要因です。片方に負担が偏ると、不満が蓄積されやすくなり、それが態度や言葉のすれ違いを生み、心理的距離を広げます。
これらの要素が積み重なることで、知らぬ間に「一緒にいるのに孤独」と感じるようになり、セックスレスや会話の減少といった状態に陥っていくのです。夫婦関係の冷却は偶然ではなく、育児という人生の大きな転換点に潜む“構造的リスク”とも言えるでしょう。
その思い込みが危ない
「子育て中はセックスしなくて当然」――この言葉は、多くの夫婦が無意識に信じている“思い込み”のひとつです。確かに、育児によって自由な時間が激減し、疲労もたまり、性的欲求が後回しになることは自然な流れかもしれません。しかし、その状態を「当然」と捉えて放置することが、実は関係の深刻な崩壊につながるリスクを孕んでいるのです。
心理学的には、夫婦の性的なつながりは「絆ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌に関与しており、触れ合いやスキンシップによって相手への信頼感や安心感が高まることが明らかになっています(Carter, 1998)。つまり、「性」は単なる肉体的な行為ではなく、夫婦間の信頼と愛情を保つ重要な手段なのです。
ところが、子育てに集中するあまり、「子どもがいるから仕方ない」「数年は我慢すべき」と考えてしまうと、セックスを含む親密な関係の再構築がどんどん難しくなります。Sassler & Miller(2011)の研究によれば、性的関係の再開が遅れるほど、夫婦の感情的な距離が開き、最終的に関係満足度が低下する傾向が見られます。
さらに、「時間が解決する」との考えも危険です。何も対処しなければ、数年後には「触れること自体が気まずい」という状態になってしまうケースも珍しくありません。大切なのは、「性の問題は自然に戻るものではなく、意識的に取り組むべきもの」だと知ることです。
この誤解に気づくことが、夫婦としての関係を回復する第一歩になります。育児中であっても、愛し合い続けることは不可能ではないのです。
うまくいった夫婦は何をしていた?
育児中でも愛情と性的なつながりを保ち続けている夫婦は、決して「特別な人たち」ではありません。彼らがしていることは意外にも小さくて日常的な工夫ばかり。成功している夫婦には共通点があり、それは科学的にも裏付けられています。
まず、多くの夫婦が取り入れていたのは、1日5分のスキンシップ習慣です。朝のハグ、寝る前の手つなぎ、何気ない肩のマッサージ――こうした行動は、愛情ホルモンであるオキシトシンの分泌を促し、信頼感とつながりを強化します(Carter, 1998)。これを“義務”ではなく“日課”として行っている点が重要です。
次に注目したいのは、「夫婦会議」と呼ばれるコミュニケーション習慣です。月に1回、子どもが寝たあとや保育園・学校に行っている間に、あえて時間を取り、夫婦間の不満や希望、性生活について話し合う時間を持つ。Byers(2005)のレビューでも、「性に関するオープンな対話」が夫婦関係の質を高める強い要因であることが示されています(N=48, p < .01)。
さらに、夫婦仲を良好に保っていた夫婦の多くは、感謝を意識的に伝える習慣を持っていました。些細な「ありがとう」を口に出すことは、相手への肯定感を伝える強力な手段であり、関係のポジティブな循環を生み出します。
これらの行動はいずれも「時間がない」「疲れている」中でも実行可能なものであり、積極的な行動というよりも“日々の選択”の積み重ねです。育児中だからこそ、意識的に愛し合う努力を続けた夫婦たちは、その先の関係性に大きな違いを生み出しています。
もう一度、心と体でつながるには
セックスレスに悩む夫婦にとって、最も効果的なアプローチは「段階的な関係の再構築」です。Sassler & Miller(2011)の研究では、親密な関係の再構築には感情的安全性の確保と性的な対話の再開が不可欠であることが示されています(N=122、p < .01)。以下に紹介する4つのステップは、その両方をバランスよく整えるための実践的手法です。
ステップ①:自己ケアと睡眠を整える
性的親密さの回復には、まず「余裕を持てる自分自身」を取り戻すことが大前提です。育児中は慢性的な睡眠不足や疲労が続き、性欲や関心が自然に薄れる状態になります。これに対し、十分な睡眠と休息を確保することが、性的な回復の“土台”になります。パートナー同士で交代制の休憩時間を作る、15分だけでも昼寝を許容し合うなどの工夫が有効です。
ステップ②:性の話を自然に始める方法
「性について話すのは気まずい」――多くのカップルが感じる壁です。しかし、Sassler & Miller(2011)でも示されているように、性生活の満足度は会話の質と量に比例します。正面から「セックスの話をしよう」と切り出すのではなく、「最近あまりふれあってないよね」「昔みたいに寄り添って寝てみようか」といったライトな言い回しでスタートするのが現実的です。笑顔やユーモアを交えることで、話のハードルはぐっと下がります。
ステップ③:子どもが寝た後の5分間儀式
親密さを回復する鍵は、「短くても毎日つながること」。子どもが寝静まった後の5分を使って、スキンシップの“儀式”を設ける夫婦は、関係が良好に保たれる傾向があります。たとえば、手をつないで話す・一緒に深呼吸をする・お互いに「今日ありがとう」と伝える、など。特別なことではなく、「毎晩やる小さな触れ合い」が、性的関係への心理的ハードルを下げていきます。
ステップ④:信頼関係の再構築スキル
最後に、セックスレスの根本には「信頼感のゆらぎ」が隠れているケースも多く見られます。これは裏切りではなく、「わかってくれない」「私ばかり我慢している」といった感情の積み重ねによるもの。こうした不信感は、日常会話の中で少しずつ修復することができます。「否定語を減らし、感謝と共感を意識する」「相手の話に反論せず一度受け止める」といったマイクロスキルを実践することで、信頼のベースが築かれ、再び心と体がつながる関係へと近づくのです。
セックスレス解消は、単なる「性の再開」ではなく、心の距離を埋める旅でもあります。この4ステップは、育児で忙しい今だからこそ、最も効果的に機能する実践法と言えるでしょう。
あなたの状況に合わせて選べる
状況や家庭環境によって、セックスレスの原因や解決方法は大きく異なります。そこで今回は、あなたの今の状態に応じて選べる「実践プラン3タイプ」を提案します。これはSassler & Miller(2011)の研究にもとづく「段階的再構築モデル」を応用し、現実的かつ効果的に“愛し合える夫婦”へ戻るための実践法です。以下のタイプから、自分たちの状況に最も近いものを選び、まずは一歩踏み出してみてください。
■タイプA:共働きで時間が取れない夫婦向け
共働き夫婦は、1日のスケジュールがタイトで、物理的に「ふたりだけの時間」が確保しづらいのが現実です。このタイプの鍵は、“時間”ではなく“質”を優先すること。
- 朝5分の「顔合わせリチュアル」:出勤前にコーヒーを一緒に飲む、アイコンタクトを交わすだけでもOK。
- 週に1回の「スマホ断ち夜」:スマホやテレビを切り、一緒に食事をする/話す時間を確保。
- 性の話は「メモ共有」から:直接の会話が難しい場合は、LINEや共有メモで思いを書き出すスタイルも有効です。
ポイントは、「時間がない」を理由にゼロにしないこと。最小単位の接点を日常に仕込むことが、再接近の扉になります。
■タイプB:一方が育児メインになっている場合
片方が育児を一手に担っている場合、役割の不公平感がセックスレスを加速させる大きな要因になります。このタイプには、「感謝」と「リセット」の仕組み作りが必要です。
- 毎日の「おつかれさまメッセージ」を交互に送る:LINEで一言でも感謝を伝え合う習慣。
- 週1回、相手の“自由時間”を完全保障:互いに「自分の時間」を与え合うことで、精神的な余裕を確保。
- 「私ばかり」が積もったら、言葉でなく“共有メモ”で整理:冷静に思いを伝える手段として使えます。
このタイプのポイントは、不公平感の放置が親密さを崩す最大の要因であると理解し、「対話と分担」を軸に信頼を再構築することです。
■タイプC:会話も減って冷え切った関係の場合
ここまで進行してしまった夫婦関係には、いきなり“性”に焦点を当てるのではなく、まず感情の温度を上げる“再接触プラン”が必要です。
- ノルマなしの「共同行動」から始める:一緒にウォーキング、同じ料理を作る、子どもの送り迎えを交代で行うなど、“チーム”として再起動。
- 「過去の思い出」を振り返る時間を作る:スマホのアルバムを見る、写真整理をするなど、ポジティブな記憶を共有する。
- 「性」ではなく「ふれあい」を意識したスキンシップ:いきなり性行為を目指さず、まずは手をつなぐ、肩に触れるなど、ゼロからの再出発を。
このタイプでは、“ふたりで笑う時間”を取り戻すことが最重要です。心の温度が上がらない限り、身体のつながりも自然には戻ってきません。
それぞれの夫婦には、それぞれの歩み方があります。無理に“正解”を目指すのではなく、自分たちに合った再接続の方法を選ぶことが、長く続く愛の秘訣です。
■結論:
私たちが「もう一度愛し合いたい」と願うとき、それは大きな決意や劇的な変化ではなく、“小さな一歩”から始まります。育児中という慌ただしい日常の中で、関係を深める余裕などないと思うかもしれません。でも、実はほんの少しの行動が、夫婦関係の温度を変える力を持っています。
例えば、今日から始められる行動は…
- 「ありがとう」「助かったよ」など、感謝の言葉を口にする
- これは、相手に対する肯定と信頼のサインです。1日1回、意識して言葉にしてみましょう。
- スマホを置き、5分だけ目を見て話す
- デジタルから距離を取り、アイコンタクトを伴う会話をすることで、心理的なつながりが自然と強まります。
- このブログ記事をパートナーと一緒に読む
- まずは「話し合い」よりも、「共通の情報を読む」ことで自然な会話のきっかけが生まれます。感情的にならず、冷静にテーマを共有するのに効果的な手段です。
変化は、大きな努力より、継続できる小さな工夫から始まります。
「セックスレスを解消しよう」という言葉が重く感じるなら、代わりにこう考えてください。
「もう一度、大切な人と心をつなげたい」
その気持ちがある限り、きっとふたりの関係は前に進んでいけます。まずは、今日。その想いを、行動に変えてみましょう。
参考文献
- Sassler, S., & Miller, A. J. (2011).
Class differences in cohabitation processes. Family Relations, 60(2), 163–177.
https://doi.org/10.1111/j.1741-3729.2010.00641.x
→ 家事や育児の分担と性生活の満足度に関する研究- Nomaguchi, K. M., & Milkie, M. A. (2003).
Costs and rewards of children: The effects of becoming a parent on adults’ lives. Journal of Marriage and Family, 65(2), 356–374.
https://doi.org/10.1111/j.1741-3737.2003.00356.x
→ 育児ストレスと夫婦関係の親密さに関する調査- Carter, C. S. (1998).
Neuroendocrine perspectives on social attachment and love. Psychoneuroendocrinology, 23(8), 779–818.
https://doi.org/10.1016/S0306-4530(98)00055-9
→ スキンシップとオキシトシン分泌、絆の強化に関する研究- Byers, E. S. (2005).
Relationship satisfaction and sexual satisfaction: A longitudinal study of individuals in long-term relationships. Journal of Sex Research, 42(2), 113–118.
https://doi.org/10.1080/00224490509552264
→ コミュニケーションの質と性生活の満足度に関する縦断研究- Kalmbach, D. A., Arnedt, J. T., Pillai, V., & Ciesla, J. A. (2015).
The impact of sleep on female sexual response and behavior: A pilot study. Journal of Sexual Medicine, 12(5), 1221–1232.
https://doi.org/10.1111/jsm.12858
→ 睡眠不足と女性の性反応・性行動の関係に関する実証研究