セックスレスになる夫婦やカップルにはどんな特徴があるでしょうか?
近年、日本においてセックスレス夫婦の割合が急増しており、2023年の最新調査では68.2%の夫婦がセックスレス傾向にあることが明らかになっています。これは個人的な問題にとどまらず、社会全体に影響を及ぼす重要な課題として認識されています。
本記事では、査読付き学術論文をもとに、セックスレス夫婦の特徴、原因、影響、そして対処法について科学的に分析します。
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セックスレス夫婦の定義と世界的統計
学術的定義
日本性科学会の定義によると、セックスレスとは「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合」を指します。この定義には挿入行為だけでなく、キスやペッティング、裸でのベッドインなどの性的接触も含まれます。
国際比較における日本の深刻な状況
国・地域 | セックスレス夫婦の割合 | 調査対象年齢 | サンプル数 | 特徴 |
日本 (2023年) | 68.2% | 20-50代 | 4,000人 | 過去最高水準、年代とともに増加 |
日本 (2020年) | 51.9% | 20-49歳 | 2,918人 | 前回調査より大幅増加 |
ドイツ | 3.6% (完全満足・セックスレス) | 20-39歳 | 2,101組 | 幸せなセックスレス夫婦は稀 |
アメリカ | 15% (年間セックスなし) | 結婚者全体 | 18,000人 | 年齢とともに増加傾向 |
中国 | データ限定 | 制限あり | 制限あり | 限定的データ |
国際的な比較研究によると、日本のセックスレス夫婦の割合は他国と比べて極めて高い水準です。ドイツの研究では、幸せでありながらセックスレスの夫婦はわずか2.3%であるのに対し、アメリカでは年間性的接触のない夫婦が15%程度と報告されています。日本の68.2%という数値は、国際的にも深刻な状況を示しています。
セックスレス夫婦の行動的・心理的特徴
特徴領域 | 具体的特徴 | 男性の傾向 | 女性の傾向 |
コミュニケーション | 性的話題の回避、要求の間接的表現、感情的対話の減少 | 直接的要求、沈黙による表現 | 間接的拒絶、話題転換 |
感情表現 | 愛情表現の減少、怒りや不満の蓄積、感情的距離感 | 拒絶による怒り、自尊心の低下 | 疲労感の強調、感情的負担 |
身体的接触 | 非性的接触の回避、抱擁やキスの減少、身体的親密さへの不安 | イニシアチブ取りを諦める | 全ての接触への警戒 |
ストレス反応 | 慢性的疲労感、睡眠問題、仕事優先の思考パターン | 仕事へのより深い没頭 | 育児・家事ストレスの優先 |
自己認識 | 性的魅力への自信低下、パートナーへの拒絶感、罪悪感 | 男性性への疑問、無力感 | 体型への不満、魅力への不安 |
パートナー関係 | 共通時間の減少、別々の活動増加、親としての役割重視 | 距離を置く行動、外部活動増加 | 母親役割への過度な重点 |
性的態度 | 性行為への消極的態度、義務的思考、快感への期待低下 | 頻度への固執、機械的思考 | 面倒さの感情、痛みへの恐怖 |
生活習慣 | 運動不足、不規則な食事、アルコール依存傾向 | 不健康な習慣の増加 | 自己ケアの軽視 |
コミュニケーションパターンの変化

セックスレス夫婦の特徴の一つは、コミュニケーションパターンの変化です。性的話題の回避や感情的対話の減少、要求の間接的表現が見られます。男性は直接的な要求や沈黙による表現を示しやすく、女性は間接的な拒絶や話題転換を行う傾向が報告されています。
感情表現と身体的接触の変化
研究によれば、セックスレス夫婦では愛情表現の減少、怒りや不満の蓄積、感情的距離感の拡大が確認されています。また、性的接触だけでなく、ハグやキス、手つなぎなどの非性的な身体的親密さも回避される傾向があります。
性別による特徴の違い
査読付き論文の分析では、セックスレスに対する反応に明確な性別差が存在します。男性では拒絶による怒りや自尊心の低下、男性性への疑問が生じやすく、女性では疲労感の強調や感情的負担、体型への不満が特徴的です。
セックスレスの根本的原因分析
心理的要因
心理的要因はセックスレスの主要な要因の一つです。ストレス、うつ病、不安障害、性的トラウマ、自己肯定感の低下が挙げられます。特に、hypoactive sexual desire disorder(HSDD)は女性の10%、男性の8%に影響を与える一般的な性機能障害です。
身体的・医学的要因
身体的要因には勃起不全、性的興奮障害、慢性疾患、薬物副作用が含まれます。特に抗うつ薬、特にSSRIは性的欲求の低下を引き起こすことが多くの研究で確認されています。また、糖尿病や心血管疾患、神経疾患などの慢性疾患も性機能に大きな影響を与えます。
関係性要因
関係性要因は最も影響度が高いとされ、コミュニケーション不足、信頼関係の欠如、愛情表現の減少、価値観の相違が主な要因です。縦断的研究では、夫婦の満足度と性的満足度が相互に影響し合うことが示されています。
特徴領域 | 具体的特徴 | 男性の傾向 | 女性の傾向 |
コミュニケーション | 性的話題の回避、要求の間接的表現、感情的対話の減少 | 直接的要求、沈黙による表現 | 間接的拒絶、話題転換 |
感情表現 | 愛情表現の減少、怒りや不満の蓄積、感情的距離感 | 拒絶による怒り、自尊心の低下 | 疲労感の強調、感情的負担 |
身体的接触 | 非性的接触の回避、抱擁やキスの減少、身体的親密さへの不安 | イニシアチブ取りを諦める | 全ての接触への警戒 |
ストレス反応 | 慢性的疲労感、睡眠問題、仕事優先の思考パターン | 仕事へのより深い没頭 | 育児・家事ストレスの優先 |
自己認識 | 性的魅力への自信低下、パートナーへの拒絶感、罪悪感 | 男性性への疑問、無力感 | 体型への不満、魅力への不安 |
パートナー関係 | 共通時間の減少、別々の活動増加、親としての役割重視 | 距離を置く行動、外部活動増加 | 母親役割への過度な重点 |
性的態度 | 性行為への消極的態度、義務的思考、快感への期待低下 | 頻度への固執、機械的思考 | 面倒さの感情、痛みへの恐怖 |
生活習慣 | 運動不足、不規則な食事、アルコール依存傾向 | 不健康な習慣の増加 | 自己ケアの軽視 |
セックスレスの生理学的影響
ホルモン系への影響
セックスレス状態が続くと、テストステロンの減少、オキシトシンの不足、コルチゾールの上昇など、重要なホルモン変化が生じます。これらの変化は身体的・精神的健康に広範囲な影響を及ぼします。
神経系・免疫系への影響
神経科学研究では、セックスレス状態がセロトニン系の変化やドーパミン感受性の低下、ストレス反応の亢進を引き起こすことが立証されています。免疫学研究では、免疫機能の低下や炎症マーカーの上昇、感染症リスクの増加が報告されています。
心血管・認知機能への影響
心血管疫学研究では、セックスレス状態が血圧上昇や心拍変動の減少、血管機能の低下と関連することが確認されています。認知心理学研究では、集中力や記憶力の低下、意思決定能力の低下が報告されています。
特徴領域 | 具体的特徴 | 男性の傾向 | 女性の傾向 |
コミュニケーション | 性的話題の回避、要求の間接的表現、感情的対話の減少 | 直接的要求、沈黙による表現 | 間接的拒絶、話題転換 |
感情表現 | 愛情表現の減少、怒りや不満の蓄積、感情的距離感 | 拒絶による怒り、自尊心の低下 | 疲労感の強調、感情的負担 |
身体的接触 | 非性的接触の回避、抱擁やキスの減少、身体的親密さへの不安 | イニシアチブ取りを諦める | 全ての接触への警戒 |
ストレス反応 | 慢性的疲労感、睡眠問題、仕事優先の思考パターン | 仕事へのより深い没頭 | 育児・家事ストレスの優先 |
自己認識 | 性的魅力への自信低下、パートナーへの拒絶感、罪悪感 | 男性性への疑問、無力感 | 体型への不満、魅力への不安 |
パートナー関係 | 共通時間の減少、別々の活動増加、親としての役割重視 | 距離を置く行動、外部活動増加 | 母親役割への過度な重点 |
性的態度 | 性行為への消極的態度、義務的思考、快感への期待低下 | 頻度への固執、機械的思考 | 面倒さの感情、痛みへの恐怖 |
生活習慣 | 運動不足、不規則な食事、アルコール依存傾向 | 不健康な習慣の増加 | 自己ケアの軽視 |
セックスレス夫婦の早期発見チェックポイント
重要度の高い警告サイン
セックスレス状態の早期発見には、複数の観点からの評価が重要です。主な警告サインとして、月1回未満の性的接触が6ヶ月以上継続していること、性的話題の回避や感情表現の減少、性的欲求の低下や身体的不調、関係満足度の低下や将来への不安が挙げられます。
男女別の特徴的パターン
研究によれば、男性では直接的な要求の増加後の諦め、仕事への過度な没頭、外部活動の増加が見られます。女性では間接的な拒絶パターンや育児・家事ストレスの優先、母親役割への過度な重点が特徴的です。
特徴領域 | 具体的特徴 | 男性の傾向 | 女性の傾向 |
コミュニケーション | 性的話題の回避、要求の間接的表現、感情的対話の減少 | 直接的要求、沈黙による表現 | 間接的拒絶、話題転換 |
感情表現 | 愛情表現の減少、怒りや不満の蓄積、感情的距離感 | 拒絶による怒り、自尊心の低下 | 疲労感の強調、感情的負担 |
身体的接触 | 非性的接触の回避、抱擁やキスの減少、身体的親密さへの不安 | イニシアチブ取りを諦める | 全ての接触への警戒 |
ストレス反応 | 慢性的疲労感、睡眠問題、仕事優先の思考パターン | 仕事へのより深い没頭 | 育児・家事ストレスの優先 |
自己認識 | 性的魅力への自信低下、パートナーへの拒絶感、罪悪感 | 男性性への疑問、無力感 | 体型への不満、魅力への不安 |
パートナー関係 | 共通時間の減少、別々の活動増加、親としての役割重視 | 距離を置く行動、外部活動増加 | 母親役割への過度な重点 |
性的態度 | 性行為への消極的態度、義務的思考、快感への期待低下 | 頻度への固執、機械的思考 | 面倒さの感情、痛みへの恐怖 |
生活習慣 | 運動不足、不規則な食事、アルコール依存傾向 | 不健康な習慣の増加 | 自己ケアの軽視 |
科学的根拠に基づく治療・対処法
心理療法的アプローチ
認知行動療法やマインドフルネス、カップル療法は高いエビデンスレベルを持ち、60-80%の改善率が報告されています。特にマインドフルネス・ベースドストレス軽減法(MBSR)は女性の性機能障害に有効であることが実証されています。
医学的治療法
ED治療薬や抗うつ薬の調整、基礎疾患の治療も高いエビデンスレベルを持ち、70-85%の改善率を示しています。特にflibanserin(Addyi)やbremelanotide(Vyleesi)は女性のHSDDに対してFDAに承認された治療薬です。
関係性改善アプローチ
コミュニケーション訓練や感覚焦点化練習(sensate focus exercises)は65-75%の改善率を示し、高いエビデンスがあります。感覚焦点化練習は、性的パフォーマンスへのプレッシャーを排除しながら、徐々に身体的親密さを回復する効果的な方法です。
段階的解決プロセス
科学的根拠に基づく解決プロセスは5段階で構成されます。第1段階の現状把握・原因分析は90%以上の成功率、第2段階の感情的対話は60-70%の成功率です。専門家相談を含む第3段階では80%以上の成功率が報告されており、早期の専門的介入の重要性が示されています。
結論
セックスレス夫婦の特徴は、単なる性的欲求の低下だけでなく、コミュニケーションや感情表現、身体的接触、ストレス反応など多岐にわたる複合的な変化として現れることが科学的に明らかになっています。日本における68.2%という高いセックスレス夫婦の割合は、個人的問題を超えた社会的課題として認識すべき重要な事実です。
セックスレス状態は多くの場合、適切な診断と治療により改善可能です。心理療法、医学的治療、関係性改善アプローチを組み合わせた統合的治療により、60-85%の夫婦で改善が期待できることが科学的に示されています。
早期発見と適切な対処によって、夫婦関係の質的向上だけでなく、身体的・精神的健康の改善、さらには社会全体の福祉向上に寄与することが期待されます。セックスレス問題に直面している夫婦は、恥ずかしさや諦めではなく、科学的根拠に基づいた専門的支援を求めることが重要です。
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